SANOGRAPHIX Blog

京都を拠点に活動する佐野章核 (sanographix) の個人ブログ。日記、webデザイン、読書、写真など。

奥ゆかしさとサムネイル(あるいは、Illustfolio 4の裏側)

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Illustfolio 4というものを作った。イラストレーターのためのポートフォリオ・テンプレート。

sanographix.github.io

突然だけど、世界のサムネイルサイズは拡大の一途を辿っている。確かな裏付けはないが、年々大きくなっている実感がある。リッチなビジュアルを使ったウェブサイトでは、美しい画像をより美しく見せるために、全然「親指の爪」とは思えないサイズのサムネイルを並べたりする。

その波は当然各種テンプレートにも及んでいて、大きなサムネイルを使ったウェブサイトのテンプレートが世界的に流行している。それはそれでリッチだしメリットがあるのだけど、ある条件のユーザーにとっては「大きいと困る状況」が起こりうると思う。

その条件は、とりわけイラストレーターに多いと考えていて、思いつくだけでも次のような状況がある:

  • 自分の絵に自信がないので恥ずかしい
  • 大きいサイズに耐えられる画風ではない
  • 成人向けの絵を描いているので堂々と表示させたくない
  • 特定のカップリングの絵を描いているのでひっそりやりたい

こうした状況のイラストレーターが、大きなサムネイルの選択肢しかないのはきびしい。一昔前は個人サイトで50x50pxくらいのサムネイルを作っていたのが、いまは10倍になっている。古いテンプレートを使う手もあるが、マークアップまで古いと現代のウェブでは不都合がある。

しかしながら、これは非常になんというか、奥ゆかしいニーズであると思う。であるから、その文脈(絵の温度感)を汲んだうえで設計されているテンプレートが、そうそうあるとは思えない。サムネイルがでかいとかっこいい、という流れのなかで、逆の需要が根強くあることを発見した。Zero to One でいうところの「隠れた真実」……とはちょっと違う気もするけど。

Illustfolio 4 は、そうした仮説をもとに、望むサムネイルサイズが異なる人々の需要を両立させることを目的とした、やや実験的なTumblrテーマである。旧バージョンはサイズが決め打ちだが、今回はサムネイルサイズを5段階(シングルカラムモードも含めると6段階)から選べる。↓ こんなふうにLPで試せる

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XSだと古き良きサイズって感じ。ちなみにサムネイル間の余白の量も選べる。

いたずらにオプションを増やすとユーザーが混乱する可能性もあるが、Illustfolioシリーズは「なるべく多くのイラストレーターをターゲットとする(そのかわり、イラストレーター以外は基本的に考慮しない)」方針としているため、サムネイルサイズの好みによらず使ってほしかったのだった。そういう考えがあり、LP冒頭の「イラストサイトは、このテンプレートで」のコピーを書いた。

いつもどおり旧バージョンと互換性はなく、Illustfolio 3と4は別のテーマとして認識してもらえれば幸いである。好きな方を使ってください。見た目も全然違うし。

見た目の話でもうひとつ、特にトップページでなるべくサイト上にモノトーン以外の色を乗せないことを意識した。画面が締まって見えるのと、イラストの色がより引き立つからである。余白を大きくとったモノトーンのサイトも近年人気がある。リンクには色をつけましょうというのが旧来のお約束であった。が、そうでもなくなっているってことは、ユーザーのリテラシーが上がったというか、どんどんハイコンテクストなデザインに慣れてきているからだと思っている。個人的な考えだけど、ウェブサイトに伝統的なグラフィックデザインの文脈を持ち込む場合、多くはプリントメディア的な表現になると思う。紙にはハイパーリンクがないので、モノトーンなスタイリングがそのまま持ち込まれたのではないかと思っている(このテーマではさすがにパーマリンクの文中リンクには強調色つけてはいるが)。

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デモページのイラストは、pemu さんに依頼して、提供いただいた。pemu さんは以前から Illustfolio 3 のユーザーで、僕がユーザー観察と称して各サイトを見て回っていたときに、ひときわ目を引いたサイトだった。面識はないけど、メールで非常に丁寧に対応してくださって有難かった。お忙しいところありがとうございました。


こういうテーマ、とにかく他にも沢山あって、細かな差はあるが似た感じになる。前のバージョン作ってたときも書いたけど、このテーマが選ばれる観点は何なのか毎回悩んでいる。最近は、もはや大きな違いはなくて、作ってる人が見えるところにいるからとか、そういう気持ちの問題、スーパーじゃなくて近所の八百屋で買うみたいな、そういった理由が大きいのではないかとすら思っている。

もちろん折角作ったので Illsutfolio 使ってほしいんだけど、それ自体はそんなに重要ではない。ポートフォリオサイトを作ったことがない人へ、作る楽しさを味わってほしくて、そっちの方が本来の目的である。ポートフォリオというとスカした感じだから、昔の個人ホームページと言い換えてもいい。私の部屋へようこそ、みたいな、あの感じがやっぱり好きなのだ。

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そういった懐古主義的な理由だけでなく、かつて手作りしていたものがプラットフォームで代替可能になり、みんながそれに乗っかると、プラットフォームが消滅したあと文化も道連れに滅びるのではないかと心配している。プラットフォームとはソーシャルでネットワーキングな諸々を指している。Tumblrもプラットフォームなんだけど、インターネットに俺の城なり部屋なりを作る感覚を持つことが大事で、それがあればプラットフォームが滅びたあとも別の場所でまた好きな城を作ればよい。微力ではあるが、そういう支援をしたいと考えている。

という気持ちで作ったので、ご利用ください。

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