SANOGRAPHIX Blog

京都を拠点に活動する佐野章核 (sanographix) の個人ブログ。日記、webデザイン、読書、写真など。

「Butterfly Soup 2」が今年一番好きなビジュアルノベルになった

まだ今年の終わりまで少しあるが、もう今年一番のビジュアルノベルでいいんじゃないかな!!1

先週「Butterfly Soup 2」のエンドロールを見て、じんわり暖かい読後感に浸るとともに、ノンフィクションを観たような奇妙な心地にもなった。ゲームなのに。

以下、なるべく物語の核心に触れないように書きますが、プレイするまで何も知りたくない方は上記リンクからゲームをダウンロードしてください。

Butterfly Soup 2 は、仲良し4人グループの日常を切り取ったビジュアルノベル。猪突猛進タイプのミン、引っ込み思案だが優しい性格のディーヤ、お調子者のアカーシャと常識人なノエルの4人が、高校生活のかたわら野球をしたり恋愛をしたりしなかったりする。いや、する。

前作「Butterfly Soup」の直後にあたる作品で、前作プレイは必須。とはいえ前作も今作も短編で、予習にそう時間はかからない。この記事執筆時点で「1」のみ日本語化されている。

基本的には一本道のシナリオ。選択肢もあるが、大抵は極めてどうでもいい会話で使われるのが逆にウケる

全体を通して気に入っているのが、会話がとにかく可笑しくてユーモアに富んでいるところ。全然スベってすらいない。ボケ役のアカーシャとツッコミ役のノエルの掛け合いも楽しく、「2」のシナリオではこの二人がフィーチャーされることもあり、出番は頻繁にある。ちょっとおもしろい程度のゲームでは笑わない自信があるけど、思わず吹き出してしまう場面が沢山あった。

アニメやゲームの実在の固有名詞が伏せ字なしで大量に登場するのも、楽しい会話に彩りを添えている。物語の始まりからして「友達の家でマリオゴルフをする」シーンだったりする。

「普段ゲームをしない友達にも『Portal』は貸す」だとか「北高(涼宮ハルヒシリーズ)のコスプレ衣装を着て自主映画に出る」とか、リアルを超越した不気味なほどのリアル(褒めてます)さを帯びて物語が進んでいく。とりわけ、作中の時代設定である2008-2009年当時に学生をやっていたプレイヤーなら、刺さり度が段違いだと思われる。

これがもし一般名詞だったり、なにか架空の名称だった場合どうなんだろう。ニュアンスの半分しか伝わらなかったり、シーンの雰囲気が台無しになることさえあるかもしれない。

印象に残るシーンのひとつ、友人に真面目な相談をしたあとに放った一言。メイプルストーリーで伝わるニュアンスが確かにある

作中、ごく些細な場面でYouTubeが登場する。ここが短いながらも強烈で、読むにつれて思わず「うわあ」と声が出てしまった。なぜなら、「YouTubeを "YouTubeっていうサイト" と説明しなければならなかった時代に、YouTubeの素人動画がアジア系アメリカ人の心理をどう変えたか」がはっきり描写されていたからだ。こういうタイムカプセルのような心情を固有名詞を使って描けるわけで、単に「懐かしミームがいっぱいでおもしろい」以上の意味があるのだ。

……そろそろ興味が湧いてきたかな? だがしかしここで終わらないのが Butterfly Soup 2 なんだな。

単に楽しい物語でなく、毒親問題・マイノリティの生き辛さなどの繊細な側面にも果敢に踏み込むのが前作の魅力だった。今作では、そういった側面に引き続き深く踏み込んでいると感じる。

特に幼少期の回想シーンは前作同様に読んでいて辛く、さらに「不寛容な親」が作中で手を替え品を替え登場する。程度の差はあれ、親とうまくいっていない人は読むのにガッツが要るかもしれない。

ただ、それらのトピックの扱いが職人技的で、「めちゃくちゃ辛い話もあったけど全体的にハートウォーミングだった」としっかり思えるので、どうか安心してください。

本作は群像劇なので、随所に職人技が散りばめられているのだけど、ひとつだけ例を挙げる。登場人物のひとりであるノエルが、家族とともに台湾の親戚の家を訪ねる、というパート。「移民の家系のキャラクターが自分のルーツの国へ行く」類の話で、知っている範囲で「Ms. マーベル(Disney+)」におけるカマラ、「セックス・エデュケーション(Netflix)」におけるエリックでこうした一幕がある。大抵はドラマの中盤に差し込まれ、新たな角度からキャラクターの魅力を発見できるようになっている。Butterfly Soup 2 ではこの台湾パートで、ノエル本人だけでなく両親も巻き込んでキャラクターの深堀りがなされる。こうして、ノエルにとっての親にまつわる諸問題に自然に触れる展開になっているわけだ。う〜ん良いですね。


この記事冒頭でノンフィクションのようだと書いた。たしかにプレイ中、ばんばん登場する固有名詞の力も相まって、作者の実体験がそのまま文章に乗ったに違いない感覚があった。その締めくくりとばかりに、最後の最後に現実とリンクする素晴らしい演出がなされる。僕はここで2回目の「うわあ」を言ってしまった。

作者のきわめてパーソナルな心情を閉じ込めたゲームを求める方にとって、この作品がうってつけなことは間違いない。このチャーミングな4人組の賑やかな日々の続きが見られた今は満ち足りた気持ちでいる。

ひえ〜かわいい