イラストレーター専用設計
あなたはフリーランスのイラストレーターです。活動して一年ほど経ち、イラストの仕事が少しずつ増え始めて手応えを感じています。将来のために、もっと自分の絵を売り込みたいと考えています。そういえば、フォロワーの何人かはポートフォリオサイトを持っているのを思い出しました。あなたもポートフォリオサイトに興味を持ちますが、仕事が忙しくて手が回りません。さて、どうしよう?
Illustfolio Luminaというものを作った。イラストレーターのためのポートフォリオ・テンプレートです。以前から作ってはいたけど、先日バージョン1.0をリリースしたので、ここらで経緯をまとめる。
背景
イラストの仕事をしたいイラストレーターにとって重要となるのが、ポートフォリオサイト。自分の個性をアピールしつつ、手間なくイラストを整理したい。このニーズに対して、従来のポートフォリオサイト作成サービスは、汎用的に設計されているがゆえにイラストレーター向けの機能が不足していたり、逆にあまりにも自由度が高すぎて、かえって手間がかかるといった課題があった。
冒頭のくだりは一体なにかというと、開発にあたり行ったインタビューを元にしている。今回、さまざまなイラストレーターの方に協力を仰ぎ、合計数十名にインタビューを実施してきた。
すべてのインタビューに新しい発見があり、たいへん貴重なインサイトを得られた。すべてがリアルな体験談だからだ。「ポートフォリオが必要な状況とはいつなのか」、「X(Twitter)のメディア欄がポートフォリオの代替にならない理由」など、学んだことを挙げればきりがない。
これらに着目し、「イラストレーター専用のテンプレート」としてIllustfolio Luminaを開発した。
特徴
プロフィールがひと目で伝わる
トップページで、自己紹介とカバー画像が隣り合うレイアウトを採用した。インタビューで見つかった最大のニーズとは「ポートフォリオは自分だけでなくクライアントにとって分かりやすいものにしたい」だった。それを反映したレイアウトになっている。
ギャラリー向けのテンプレートのなかには、自己紹介欄が小さい、あるいは全く無いものもある。だがそれだと、サイトを見ても「プロとしてイラストの仕事を受け付けているのか、趣味で描いているだけなのか見分けがつかない」という問題がある。Illustfolio Luminaでは、「作風もプロフィールもきちんと伝わる」ことを重視している。
実はアップデートによって別のレイアウトも選べるようにしたが、一番人気はデフォルトのレイアウトである。
イラストレーター専用設計
「イラストレーターが、自分のやりたい仕事を叶えられること」に目的を絞ることで、複雑さを排除しつつ機能的なテンプレートを目指した。機能それぞれが上記の目的に繋がっており、たとえば、趣味絵・仕事絵を分けて見せられるナビゲーション、投稿をその場で開くクイックプレビュー、問い合わせページへのボタン、などである。
なお、一口にイラストレーターといっても、活動ジャンルやクライアントの業界によってニーズが全く異なることも分かっていて非常に興味深い。
お仕事情報も分かりやすくまとまる
実は、自己紹介に次いで「問い合わせページを編集できる」ことは意外なほど重要である。なぜなら、「引き受けられない仕事」のような依頼時の注意事項をまとめたいニーズがあるからだ。
本製品では、自己紹介や問い合わせページを統一したデザインで作ることができる。もちろん、必要に応じて別のページも増やせる。
更新が簡単
インタビューで「今まで自作のウェブサイトや他社のサイト作成サービスを使っていたが、更新作業が大変で止めてしまった」という声が多かった。また、過去に作った拙作のテンプレートの利用者にその理由を伺ったところ、デザインなどの理由のほか「作品の追加が簡単だから」という声も非常に多かった。よって、この特徴はそのまま引き継いでいる。
新しく試したこと
今回の開発過程で新しく試したことを箇条書き的にまとめていく。
インタビュー。 先述のとおり、ここから得られたインサイトはすべての過程で役に立った。
有料販売。 これまで、作ったテーマは基本的に無料で配布していた。多くの方に使っていただけたので、それ自体は良かったと思っている。だが、今回は2つの理由で有料販売とした。1つは、今後もしっかりテーマをアップデートしていきたいから。もうひとつは、自分の製品に価値を感じる人が果たしてどのくらいいるのか試したかったから。
ニュースレター。 アップデート情報・ちょっとした小話を月1通程度のニュースレターで配信している。これは、購入者に対して新機能などのお知らせを確実に知らせる手段が欲しかったことから始めた。メールの開封率は当初の予想を大きく上回っていて、手応えを感じている。
Astro。 ランディングページのフレームワークにはAstroを使用した。覚えることが少なく、簡単にパフォーマンスの高いサイトが作れてとても良かった。(どのくらい覚えることが少ないかというと、ランチの待ち時間にちょっとチュートリアル読んだ程度で、とりあえず使い始められるくらい)
多言語対応。 英語・日本語の2言語に対応した。ランディングページは、Astroのi18n機能を使用。ヘルプとニュースレターは、それぞれNotionサイトとbeehiivで英語・日本語の2バージョンを作ることで対応した。さらに、決済プラットフォームにLemon Squeezyを使用したことで、各国の税率や決済手段にも対応できた。
アーリーアクセス。 今年8月から4ヶ月ほどアーリーアクセス期間を設けた。これにより製品の完成を待たずに素早く提供を始められたうえ、フィードバックを受けながらブラッシュアップができた。
無料体験版。 購入前に、自分のイラストがどのように配置されるか試してみたい方もいると思う。そこで先日、無料体験版を追加した。体験版が製品購入にどのような影響を与えるかしばらく様子を見るつもりだが、いまのところ良い影響を与えていそう。
10年以上前からイラストレーターのためのソリューションを作り続けている。今回はインタビューを開発の中心に据えたことで、これまでで最も工程に変化があった。多くのイラストレーターの方の話を伺って学習していくプロセスはやりがいがあり、孤独感も和らいだ。今年の2月から企画を始めたので長くかかってしまったが、楽しいプロジェクトになったと思っている。