泣きゲー
ここ1ヶ月ほど「Microsoft Flight Simulator」で遊び、信じがたいほど濃密なときを過ごした。Microsoft Flight Simulatorとは、マイクロソフトのフライトシミュレータである!!
いきなり飛んでみる
このゲームは、地球上の1.5兆本の樹木*1から道路1本に至るまで、文字通り地球すべての地形、すべての都市を収録している。規格外の巨大オープンワールドだぞという噂を聞いたことがあるかもしれない。
つまりごく普通の場所に住んでるゲーマーが、自分の家を見に行ける唯一のゲーム。そうと決まれば見に行きたい。しかし、シマーではない僕にとってフライトシムは未知の領域で、若干の不安もあった。
チュートリアルもそこそこに小型のプロペラ機をいきなり飛ばしてみたところ、飛ぶだけならあっけないほど簡単だった。Xboxコントローラで全然遊べる。なので、とりあえず知ってる地域に向かって再現度を見てみたい、という当面の目的はわりと最序盤に達成可能だったりする。
これがもっと正しい手順で飛ぶとなると、もちろん更に知識が必要になってくる。そのへんはゲーム側が自動化してくれるアシスト機能があり、操縦の楽しいところだけを味わうことが可能。
空気を変えよう
目的地に着いたら、ゲーム中いつでも好きな時刻・天候に切り替えられる機能を使うのが気に入った。同じ場所でも朝と夜とでは表情がまったく異なり、一度のフライトで二度も三度もおいしい。
日頃の生活だと早朝のシャキッとした空気はなかなか縁遠いものだが、手軽に「やうやう白くなりゆく山際」が拝めたりして、なるほど朝活もいいなあ、なんて気持ちになったりする。思うだけだが。
学習からの学習
シミュレータなのでゲーム内に特に経験値とかなかった気がするけど、実質レベル0の状態からはじめたと言っていい。そんな状態だから実践を積むたび、着陸の仕方とか計器の見方とか、なにかしら毎回新しいことを覚えた実感がある。コックピットに並ぶ無数のスイッチの1つや2つでも意味がわかるようになったりしたときにも実感できる。こんなに学習の結果が即現れるゲームは久々にやった。
他のゲームと異なるもの
もともとこのゲームに興味を持ったのも、遊んだいま興味が続いているのも、従来のゲームとはアプローチが異なっているからだった。具体的には、それぞれの専門分野ごとにパートナーシップを結んでいる点。
たとえば、地球のほとんどの建造物は3Dデータが存在しない*2ため、衛星写真をもとに樹や建物を立体化する技術をAIスタートアップと組んで実現している。屋根の写真だけで建物を立体にできるんかいな、と思うものの、どうも生成時に地域特性を考慮しているらしく、日本にはのび太の家みたいな典型的日本家屋が生えているのを見てなるほどと思った。
その衛星写真はBingマップチームとの連携によるものだし、前述の天候システムは気象情報を専門に扱う企業との提携。このへんの情報は公式の技術解説動画の受け売りなので詳しくは元動画を見てほしい。
最初から内製をしない態度はマッシュアップ的でおもしろい。その理由は、地球が広すぎるからという事情に集約されるだろう。ユーザーとのコミュニケーションの仕方にもそれが言える。地球上の特定の部分がおかしいとかそういうレベルのトラッキングは開発者にも実質不可能なので、おかしな場所を見つけたらフィードバック送ってくれという姿勢をとっている。これも開発者インタビュー動画で語られていて、彼らのこのプロジェクトへの情熱を容易に窺い知ることができる。
1/1スケール地球
ゲームは短いスパンで都市データの更新やVR対応(大迫力でした。ぜひ試してね)等が追加されており、これからも10年かけてアップデートしていく計画だという。
そうした情報に触れながらプレイしていると、ほどなくその真の目的に否応無しに気付かされる。
つまり、マイクロソフトは地球の1/1スケール生き写しを作るつもりなのだということ。そのただひとつの目的のために各界のスペシャリストが集っているわけで、家庭用ゲームの皮を被った途方もない野心に目がくらむ思いがした。
フライトシムの歴史を追っていた人なら、このゲームにまた全然違う景色を見ているはずで、それはそれで羨ましいなと感じる。僕にとっては、これは夢そのものだ。
リリースが2020年という困難な時期になったのは、ただの偶然でしかない。しかし、ここまで奇跡的なタイミングで完璧なゲームを目の当たりにすると、この1年叶わなかったあんな場所やこんな場所への憧れを重ねてしまう。
Microsoft Flight Simulatorは、シミュレーションの計算結果として、ただ地球は美しいと言っている。それだけで、たぶん多くの人が同じ夢を見られる。