現実でどんなことがあったか知るには、ニュースを見たり、あるいは近所の張り紙を見たりする。ゲームにおいても、同じような手段で世界の出来事を理解できることがある。
ロアとは、ゲームの物語を補強するバックストーリーのこと、らしい。「らしい」というのは、あまりはっきりと定義している場面を見たことがないので。個人的には、「知っていると世界観を更に理解できる知識で、かつ知らなくても本筋のストーリー進行に支障をきたさないもの」と解釈している。とりあえずこの解釈で進めさせてください。
ロアを積極的に取り入れて成功しているゲームとして、「The Elder Scrolls(TES)」シリーズが知られている。このシリーズでは、膨大な書籍や手紙がマップの至るところに散りばめられている。探索中にこれらを見つけて読むことで、シリーズを貫く世界観をより深く知ることができる。
古くは、ゲームの取扱説明書にバックストーリーが事細かに書いてあったり、設定資料集なんかも昔からあるので、ロア自体は新しい概念ではない。ロアという名前でなくとも、ゲーム内に似たような解説が実装されているタイトルも昔からある。しかし手法が確立された現在では、かなり自覚的なタイトルがいくつもあるように思う。最近のゲームでは『Cyberpunk 2077』が質・量ともにちょっとおかしな規模だったことを覚えている。
『Cyberpunk 2077』を例にすると、市民にとってサイバーウェア(インプラント)の装着は日常茶飯事だったり、“リアル”ウォーターの価値がとても高かったりと、倫理観・価値観が我々と少し乖離している。このような価値観はメインシナリオだけではなかなか伝えきれないことがあり、ロアを読むことで一層その世界に没入できる効果がある。
『Chicken Police』は、動物ばかりの世界でニワトリの刑事が事件を解決していく、一風変わったアドベンチャーゲーム。主人公の刑事はレザージャケットを着ている。が、果たしてこの世界でレザーは合法なのか……という当然の疑問の答えが、ゲーム内のコーデックスに用意されている。Chicken Police は比較的コンパクトなゲームだが、こうした設定が読み物として登場するおかげで、世界に対してそこまでコンパクトさを感じない。
ストーリーに関わってくることならまだしも、TESやCyberpunkのようにロアの量があまりに多く、全部読んでいられないことも多々ある。「全部読めないのになぜ好きと言えるのか」と、自分で自分にツッコミを入れて、ここ数日考えていた。
数日考えた結論として「視点の転換が起きるからではないか」と感じている。あらゆるゲームは「プレイヤーの身に起こること」を中心にデザインされているわけだが、ロアによって「自分以外の人間がこの世界で意思をもって活動してい (た|る) 」と錯覚させられる。それに気づいたとき、ゲームの世界が急に何倍も広がった気持ちになる。だから、たとえ読まなかったとしても「用意されていること」自体に価値を感じるのかもしれない。
ここから先は、思いつくだけロアにまつわる記憶を挙げていく。印象に残っています、くらいの記憶なので、とりとめがないのはご容赦ください。
リアクション付き
ゲームの世界は未来だったり異世界だったりするので、価値観が現代の我々と違うことがよくある。『VA-11 Hall-A』では携帯電話でニュースやゴシップを読むことができる。このとき主人公が記事への反応を呟くので、この世界における価値観や善悪の判断基準を窺い知ることができる。ただしこの手法が使えるのは主人公にキャラクター付けがされているゲームに限られる。
環境ストーリーテリングの一種と考えられるもの
もしかしたら環境ストーリーテリングの一種に分類されるかもしれないが、プレイ中はあまり厳密に分けて考えていないので、折角だし併せて以下も取り上げたい。
『The Awesome Adventures of Captain Spirit』は、名作ADV『Life is Strange 2』に繋がる前日譚。このゲームの主人公は、父親と二人暮らしの少年クリス。最序盤で自宅を探索するシーンがあり、部屋に散りばめられた書類を読める。主人公は子供らしい感想しか言わないが、プレイヤーである我々には父親の人物像と主人公の家庭環境が浮かび上がる仕掛けになっている。
ゲーム中に見つかる書物で、プレイヤーは結構怖い思いも体験する。
『Fallout 4』で、プレイヤーは探索中にチャータースクールという施設に立ち入る。そこでは何故かピンク色のグールたちと、ピンク色の奇妙なフードペーストに遭遇する。スクール内の
同じくFallout 4で、突如襲撃してきた暴漢の死体から出てきたメモには、こう書いてある。
ここまでくるとロアとは言い難い。が、本やメモはゲーム内でロアを知る手段としても一般的であることから、油断した隙にこういう文章がぱっと目に入るとなかなか怖い*1。
バフと相性悪い
じっくりゲーム世界の出来事を学んで浸りたい気持ちに、焦りが邪魔することもある。個人的に感じているのは、オンラインゲームにおける「一定期間の経験値1.5倍」や「一定期間のステータスアップ」などの状態と読み物コンテンツの相性が悪い。オンラインゲームなので読み物を読んでいる間も時間が止まらず、かかっているバフを無駄にしている気持ちになってしまう*2。
どこで拾ったかわからん問題
道中で書籍を拾っても「あとで読もう」と思って溜め込んでしまうことがある。しかし、そういうときに限って「拾った場所」が結構重要な意味を持っていることが多い。あとで一気読みするときに「どこで拾ったか」の情報が抜け落ちているせいで、内容がぜんぜん頭に入ってこない場合がある。
『BioShock』では、NPCのかわりにオーディオログが至るところに落ちていて、その場で再生できる。
これなら探索の手を休めずに世界観を知ることができる、という一定の便利さはある。しかし、サクサク探索しすぎて次の部屋に入った瞬間にイベントが始まりオーディオログが中断されるかもしれないとの思いがよぎり、全部聴き終わるまで部屋から出ず待機、みたいなムーブをやりがちだ。
『Marvel's Guardians of the Galaxy』でとられた手法は、ひょっとしたらこの問題を意識しているのかもしれない。同作では主人公のピーター・クイルが、バイザーで周囲をスキャンできる。スキャン中は隠れたアイテムやインタラクト可能な箇所が強調表示されるので、プレイ中に多用することになる。このスキャンをオブジェクトに向けると、そのオブジェクトにまつわる豆知識がその場で読める。しかも結構な数が用意されている。オブジェクトに関するロアしか表示できない縛りはあるものの、有効な方法だと思った。