自分の気持ちや行動を完全に理解してる人ってどのくらいいるんだろうか。自分のことですら曖昧なのに、ましてや他人のことなんて一から十まで分かるわけない。けどそれでいいし、ちゃんとやっていける。『Lingua Fleur: Lily』は曖昧であることを優しく肯定してくれるゲームだった。ということでSteamウィッシュリストに入れておいたタイトルが発売を迎えて購入、先日ようやく読み終えた。
プレイ前にタイトルを見ただけの予想では、Lily とあるように分かりやすい百合ものビジュアルノベルなんだろうと思っていた。先に断っておくと本作は百合の解釈をプレイヤーに委ねているので、わかりやすさを期待すると首をかしげることになる。その実は「周りと違うこと」への葛藤、それらをすこし乗り越えた先の自己成長に焦点が当てられる、静かで真面目な作品だった。
主人公のYuyiは成績優秀だが内向的な大学生で、目立つのが苦手である。だから、自分のセクシュアリティが周囲と違うのかもしれないことを恐れているし、少なからず混乱の原因になっている。シナリオはYuyiの視点から語られるわけだが、内気な彼女はしばしば「体育の授業中ボールを顔面にぶつけられ鼻血が出てるのに、真っ先に向かう先は保健室ではなくトイレの個室」「パーティーの招待の返事を数日寝かせておいて時間切れを目論む」など、妙に人間臭い一面を見せる。現実味と臨場感のある内気描写が本作の巧みなところだし、共感を誘う。
体育でボールをぶつけてしまった(事故です)張本人が、Yileという陽気で楽観的な少女。Yuyiとは真逆の性格の彼女との出会いが、Yuyiの気持ちを少しずつ変えていく。話を引っ張っていくパワーのあるキャラクターだから、これがまた魅力的に描かれてるんだよな〜。ほかに、たまにメッセンジャーでやりとりする中学時代の家庭教師の女性を加えて、殆どこの3名のキャラクターしか登場しない。これはYuyiの交友関係の少なさを表現しているという理解でよいはず。ちなみに、ボイス付きモブキャラの登場はゲーム終盤に集中している。なぜなら終盤にかけて、周囲の助言で少しずつ新しい場所に出かけるようになるからだ。それに呼応するように増えるモブに、急に世界が広がったような感覚をプレイヤーも味わえる。
本作で描く葛藤や混乱は、整理がついたのかついてないのか微妙な終わり方をする。きちんと希望を予感させる終わり方ではあるが、ここで終わるのってところで唐突に終わる。普通はそんなエンディングはすごく不満が残るものだ。しかし僕は先に書いたとおり、曖昧さを肯定してくれるのがこのゲームの美しいところだと思ったので、曖昧で終わってよかったとすら思った。「繊細な気持ちにあえて白黒つけない」ことで、同じ気持ちを抱えているプレイヤーの中には救われる人もいるんじゃなかろうか。
本作は短編であることが事前に決まっていたという。そもそもの企画が、同チームが以前制作した長編ノベルゲームの翻訳費用を捻出できず、最初からローカライズする前提で新規に短編ノベルを作った、と語られている。短編で人の悩みが全て解決するなんて都合のいい話はないので、意図して風呂敷を畳みきらなかったのではないか。すべてに折り合いをつけるのではなく、小さくても前向きな変化をいくつか起こせたらそれで充分なのだ。DLCが予定されているそうだが、引き続き日常の些細な変化を描く作風になってることを望む。
ローカライズについて
日本語はないので英語版をプレイした。ボイスはローカライズされておらず中国語のままなので、中国語勉強したい方にも良いんじゃないでしょうか(僕は一切わかりません)。英語版は中国語を元にローカライズしたせいかもしれないけど、捻った表現があまりなく、比較的読みやすい。毎回書いてるけど僕は誇張ではなく本当に英語の成績悪かったので、こんな余裕かませるということはその通りだと思ってください。とはいっても雰囲気で読んでる箇所も多々あるので、ここまでに書いた物語の考察が全部的外れな可能性もあるっちゃある。緊張感ありますね。真実は君が確かめるんだ!
ローカライズ起因のバグっぽいところで、セーブデータをロードすると必ず中国語になっていて、いちいち切り替え直す手間がかかるのがひとつ。そしてこっちが深刻で、2行に収まらないテキストはバックログの途中で切れてしまい、長めのテキストはもれなく尻切れになってしまう(たぶん中国語では2行に収まっているのだろうが、英語だと3行以上になるケースがたまにある)。僕は頻繁にバックログを読み返すのでかなり困った。
また、ローカライズというよりは素材の問題だけど、背景素材の幾つかが日本のビジュアルノベルを前提とした画像となっていて、思いっきり電柱などに日本語が書いてあるけどいいのかな……と思うシーンが何度かあった。あとはバレーボールの試合シーンが結構長くて、そこまで試合の中身に興味のない自分にはやや退屈だった。引っかかった点といえばそのくらいで、それを補ってあまりある面白さなので本筋に影響ないです。
当初の予想と全然違う内容だったけど、これはこれで全然ありだ。というか好きなやつだこれは。読むの時間かかるので、短編でむしろ助かった。安いし。また、優しい色合いのビジュアル、落ち着いた曲揃いのサウンドトラックはどちらも作風とよくマッチしている。特にサウンドトラックは間違いなく出色の出来で、思わずサントラも買ってしまった。
追記: おめでとうございます
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— Narrator&Storia (@NarratorStoria) 2019年5月24日
曖昧なままでも生きていける